名曲千夜一夜物語-699~"Lonely Woman"-Ornette Coleman-1959

更新日:6 日前


アルバム"The Shape of Jazz to Come"収録

Ornette Coleman - Alto Saxophone

Don Cherry - Cornet

Charlie Haden - Bass

Billy Higgins - Drums

Nesuhi Ertegun - Producer


Written by Ornette Coleman

これが"Lonely Woman"が最初に世に発表された録音です。この曲を"Ornette"自身は

『私の音楽の創作理論"Harmolodic”が初めてカタチとなったものだ』

と語っています。


"Ornette Coleman"は1930年テキサス州生まれで2015年に85歳で生涯を閉じた

"フリージャズ"を作った男として知られるジャズマンです。そう言うと、

『”フリージャズ”?精神を患った者の集団が騒いでいるようなものじゃないですか?』

そう思う方もいらっしゃるでしょう。

歴史的にみれば、そういうふうにみられても致し方無いモノが多数存在することも

否定できません。


しかしこの曲はそうではありません。

この曲で"Ornette"が提示した"Harmolodic”が何だったかを理解することは、

"音楽をつくる行為とは何なのか"を知ることに一歩近づくことでもあると

私は思うのです。

アルバム"The Montreal Tapes"収録

Charlie Haden - Bass

Don Cherry - Trumpet

Ed Blackwell - Drums


1989年の演奏です。



"Charlie Haden"は"Ornette"が特に好んだベーシストの一人です。

その"Charlie Haden"が自分のステージで演奏した"Lonely Woman"がこれです。


彼は"Ornette"との演奏についてこう語っています。

『“At first when we were playing and improvising, we kind of followed the pattern of the song, sometimes.

最初に一緒に演奏する時は、与えられた曲のフレーズをなぞって演奏することもあった。

Then, when we got to New York, Ornette wasn’t playing on the song patterns, like the bridge and the interlude and

stuff like that.

でも演奏でニューヨークに行って演奏するとね、オーネットは教えてくれたフレーズを

演奏しないんだよ。そのようなブリッジや間奏の構成は作るんだけどね。

He would just play.

彼はただ、演奏するだけなんだ。

And that's when I started just following him and playing the chord changes that he was playing: on-the-spot new chord structures made up according to how he felt at any given moment.”

それから僕はただ彼の演奏を聴いて彼が演奏した和声構成を掴んでそれにそって演奏した。

まさに現場仕事さ。新たな和声進行や彼の放った演奏表現に瞬間的に対応したんだ。』


◆"Harmolodic"は古典音楽に通じるもの◆


"Harmolodic~ハーモロディック"とは

"harmony"・"motion"・"melody"から作った

造語です。

"Ornette"はそれを一冊の本にまとめようとしましたが完成しませんでした。。


1972年以降、ハーモロディックは議論の的と

なり、さまざまな解明が試みられていますが、

"Ornette"自身次のように語っていました。


「"Harmolodic"におけるソロ、アンサンブルをつくるには、メロディに耳を澄まし、

メロディーのもつアイデアを様々な方向に変化

させていく様を演奏するのです。」


「人それぞれの哲学に基づいた肉体的・精神的なアクションが音による表現となり、

ひとりないしは集団による共鳴の感覚をもたらすのです」


そして


「"Harmolodic"とは、モデュレーション(主調の転調)なしに、聴き手に変化の

整合性をもたらすことを具体化した音楽です」

とも言っているのです。


"Ornette"以前のジャズの演奏はテーマの旋律につけられた和声進行に沿いながら、

即興部分ではテーマの旋律から離れて音を紡いでいきます。基本にある和声進行だけが

テーマとの関連性を保証しているものです。そしてテーマが再現されて

曲は終わりとなります。


"Ornette"は"Bop Jazz"のそのような形式とは全く異なり、テーマの和声進行には従わず

テーマの旋律的要素~を変形させながら、さらに新しい旋律的要素も付加していくことを

望みました。


なぜならば、

”和声-コード"が決められてしまうと、その和声に適合する音階の音しか使えなくなります。

そもそも、作曲とは旋律を産むことであって、和声ではありません。

和声の進行をおもいついたとしても、それは3和音の連続であれば

3つの旋律の集合だからです。


即興演奏で前の旋律を受けて移調的な旋律を想いかべたとしても、

和声が決められているとそちらへ向かうことはできないのです。

そこで、『自由な創造』がとざされることになります。


"Ornette"の繰り出すテーマ(もしくはテーマらしき旋律)はダイアトニック的な

きれいな旋律です。

そしてそれを受けて各演奏家が変奏的即興をおこなっていくのです。

その即興演奏で時として和声感が多層的になる状況がうまれることがあるのです。

そのため、

アルバム"The Shape of Jazz to Come"でもそうですが、

共に演奏するメンバーは”単音楽器”です。つまり、ピアノもギターもありません。

和音を奏でる楽器が一緒になると、和声を弾かれることで、和声的バランスが

クラッシュしてしまう危険性が高くなるからです。


"Charlie Haden"の1989年での演奏もトランペット、ベース、ドラムという編成です。

それが"Harmolodic"という概念を活かすに適した演奏形態なのです。


アルバム"Random Abstract"収録

Branford Marsalis - saxophones

Kenny Kirkland - piano

Lewis Nash - drums

Delbert Felix - bass

1988年



美しい演奏です。

"Branford Marsalis"は知性ある音楽家ですので

"Ornette"の概念をよく理解しているのでしょう。


"Harmolodic"という概念にもとづくという"Ornette"の楽曲は

聴き手が調性の不安定さを感じることもあるかもしれませんが、いわゆる現代音楽で

使われる"無調音楽"という言葉に属するものではありません。

ましてや"自由"と言う言葉に踊らされた騒音のような音楽でもありません。


むしろ近代音楽の理論家で作曲者である"Arnold Schönberg(アーノルドシェーンベルグ)"

が著書"作曲の基礎技法"で提示した、

『作曲とは2拍、4拍の旋律~これをMotiveという~をその特性を活かして変化させ、

組み合わせて2小節から4小節の~フレーズ~をつくる』

という、バロックから始まる過去の作曲家の手法を


譜面の上で一人で行うのではなく

ステージ上で複数の演奏家によって即興で楽曲をつくるという、

作曲の行為としては極めて根源的なものを

卓越した演奏家の共同作業でおこなうという、偉大な試みだったのです。


それは、

『聴く』

『連続した音の配列とパターン認識』

『ハーモニーの響きの理解』

『旋律のアイデアを発想する力』

『熟練した楽器で即座に実音化する力』

という行為を音楽家がおこなうということです。


クラシック音楽の作曲家はそれを譜面に書いて作曲を完結させますが、

それを遅くても"10mm秒"以内に一気に終わらせる。

それを"Ornette"が自らのバンドのメンバーに求めたことなのです。


この試みは試みであるゆえに、疑問を生じさせる作品が

できあがることもありました。

"Ornette"の作品である

1961年制作のこのアルバム

"Free Jazz: A Collective Improvisation"

フリージャズの代表的作品のひとつです。


左にDrums, Bass, Trumpet, Sax

右にDrums, Bass, Bss Clarinet, Trumpet

2つのQuartetが同時に演奏しています。




もうひとつフリージャズの代表的作品といわれているのが

”John Coltrane"が1965年に発表した

"Ascension"です。


ドラムは一人ですが、

5人のサックスに、2人のトランペット、

ピアノ、2人のベースでの集団演奏が

行われています。

確かにソロは交代で行われてはいます。



この2枚は、歴史的価値は十分にあると私も考えます。

しかし、音楽として"名作"だとは私には感じられないし、

考えられません。


"Harmolodic"は相手の演奏をよく聞いて、聴き手を意識して共感が得られる演奏をする~

"Ornette"の言うところの”集団による共鳴の感覚”を

インプロビゼイションで創生する方法です。


全ては演奏家の"聴く力"と"卓越した演奏技術"、

”相互理解を求める力~他者への愛~”があって、

初めて成功するものです。


そういう演奏家にとっては

録音の技術が確立された現代では、またライブの現場では、

素晴らしい方法でしょう。


人間はひとつの音情報しか同時には認識できません。

10人に同時に話しかけられても

理解できるのは一人の語るストーリーだけです。

だから"Harmolodic"は大編成のバンドでは

成立しない。


そのことが実証されたという意味において、

先に挙げた"Free Jazz: A Collective Improvisation"と"Ascension"の

2枚のアルバムは歴史的価値があるのです。

もっとも生きる現状に問題を抱えて混沌化した精神の聴き手にとっては

安らぎが得られるばあいもあるかもしれません。

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